ざさいたま
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おわりに

裏松光世と内裏の復元

 第一章では平安京内裏の復元を試みた。前半は裏松光世の功績と先行研究の成果をまとめた。『大内裏図考証』の研究は新しい史料の発見があり俄に進んだといえよう。宝暦事件により蟄居を命ぜられたことは俗事に煩わされることなく『大内裏図考証』構想の動機と時間とを光世に与え著作の完成度を高めたといってよい。後半では『大内裏図考証』の指図を統合して詳細な内裏図を作りコンピュータ活用の実例を示した。図面は三橋正・上原作和両先生等多くの研究者に見てもらい、数回の修正を加え、精緻を誇るものができた。史料の取捨は、三橋先生の意見も参考にしたものの独断と行ってしまったこともあり、内裏図を完璧にするためには再度の検討と明確な方針を定めることが今後必要になろう。

儀式の図面的解釈

 第二章では作成した図面と儀式書をもとにして儀式の図面的解釈を試みた。二つの儀式を検討した結果、先例を重んじた平安貴族にとっては、儀礼の意義よりも手順が重要であったといえる。儀式によっては人の移動よりも動作自体のほうが重視されることもあれば、人の移動の経路が重要であることもあった。追儺は前者にあたり御仏名は後者にあたるといえるのではないだろうか。以上のことをふまえ、御仏名と追儺の場合の二つに分け図面的解釈の利点と問題点を明らかにし総括したい。
 御仏名では儀式全体の人の動きをほぼつかむことができた。図面を用い儀式を明らかにできる好例を示せたといえよう。殊に参加者が出入りする参入に関しての手順をほぼ復元できたことは大きな成果だった。図面を活用することにより貴族の参入経路のみならず僧侶の参入経路を特定できた。このような儀式中の人の動きに関する細かい研究は、内裏の建物の役割を考える上での材料となることは間違いない。図面上何処の部分が正確に復元できるかによって貴族の関心を探ることができるのである。つまり、参入の手順が詳細に復元できることは、参入自体が儀式の重要な構成要素であることを示す。御仏名は仏教儀礼であるのに拘わらず肝心である筈の仏教儀礼そのものに関して儀式書は多くを語っていない。図面的に動きを追うことも難しい。このことは仏教儀礼より寧ろその他のことが重要視されたといえる。この特徴は『北山抄』において顕著で仏教儀礼については開始と終了だけにしかふれていない。宴は儀式に含まれていても完全な儀礼ではなく儀式のおける遊興の場であった。被綿や給禄の場面ではその動作に加え何が賜れるかが問題になった。以上のことから今日とは違った感覚で法事を執り行っていたといえる。貴族たちの関心は中核儀礼以外の部分にあったといってもよく、付加的である筈のものが中核儀礼よりも重視された。つまり、儀礼自体の意義が薄れ形骸化し、名対面で名前を称え、その儀式に参列することのほうが重んじられたのである。
 追儺では図面を用いた儀式解釈の有用性を一部では示すことができた。しかし、図面を用いた解釈の問題点も浮かびあがってきた。図面を用いた解釈では、文章ではつかみにくい人の動きを追うことができる。但し、それはある程度情報が文献に提示されている場合に有効であって、ある程度の情報が残されていない場合は儀式の動きを把握することは難しい。勿論、文献の情報が少ない場合もいくつかの経路の可能性を提示することはでき文献ではわからない部分をつかむことはできるが、はっきりしたことが示せない以上、あまり意味があるとはいえない。また、図面だけで儀式を解釈することは不可能で、図面的な解釈は文章によるところが図面よりも多く、補足的な方法であるといわざるを得ないところがある。このような問題を孕む図面による解釈であるが、より多くの文献の情報をデータに盛り込むことで、今回のような問題点を解決できる場合もあるのではないだろうか。あらゆる儀式に対して図面的解釈を試みることは図面を精巧にしわからなかった部分を明らかにするだろう。
 儀式中の参列者の動きは図面があったからこそできる解釈であることも特筆しておきたい。清涼殿においての空間の変化、つまり天皇の私的空間である清涼殿が公的な儀式空間に変化することは儀式がそこで行われることだけで変化するのではなく、儀式のための室礼が伴って初めて私的空間である清涼殿が儀式的な空間に変化する。内裏図に室礼の情報を書き加えることによって儀式の様子が鮮明になり文章だけでは読み取れない官人の位置も特定でき、つかみにくい儀式の世界を見ることができる。図面を用いた読解は有効な手段の一つである。

 可能性を示すことによって結びにかえたい。図面的解釈の改良のためにより多くの情報を盛り込むことは勿論、さらに利用しやすい方法の開発も必要である。また、三次元ソフトウェア上に精巧な内裏のデータを入力して儀式の手順が映像化できるようになると平面上ではつかめない新しい発見があるだろう。方法的な問題、技術的な問題を孕む図面的解釈はその問題にも益して利点が多い。ある程度の情報が揃えば図面的解釈は非常に有効的であり文章だけでは見ることができないところを図面という別の視点から見ることができる。また、図面的解釈は儀式解釈以外の分野に応用できるに違いない。
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