ざさいたま
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電子書籍フォーマットの未来を占う

コンテンツの形式

 電子書籍はデータとして提供される。ベンダーたちは電子書籍の規格に関する主導権と安定した収益確保の為、独自の形式(フォーマット)を一般化させようと鎬を削っている。そのような出版産業界とは別に、公共も利便性を考えた規格も提唱されている。数年たてば競争に終止符が打たれ、人々に受けいられたものだけが残るだろう。現段階の記録の意味を含めて、ある程度の勢力を持っているものを以下に列挙してみる。尚、ここで列挙するフォーマットは所謂「リフロー型」と呼ばれる、表示端末にあわせてレイアウトを行うものに限定する。

主な形式

  • XMDF(シャープ[6753]が提唱するフォーマット、DRM1)有り)
  • .book(日本のベンチャーメーカーが提唱するフォーマット、DRM有り)
  • ePub(International Digital Publishing Forum提唱の国際規格、DRM無し2)
  • アプリケーションタイプ3)
 上記のものうちから、標準たり得る規格を占うのが本稿の目的である。上記の形式はそれぞれ特色を持っている。アプリケーションタイプは、プラットフォームの性能を生かした複雑な動作が可能であり、出版社が問題とする組版上の審美的な問題にも対応でき、一番本らしい紙面(画面)を表示することができる。国産の独自規格(XMDFや.book)は縦書き表示に対応しており、日本のユーザには魅力的だという。そしてコンテンツを保護する為のDRM機能も最初から対応している。ePubは現段階で縦書きに対応しておらず、一番不利な規格だと目されている。果たしてそうであろうか。電子書籍を利用するユーザは、見た目上の問題をそれ程気にしているか甚だ疑問である。ここでは制作者でないユーザの視点から、フォーマットを検討してみたい。

ソースが提供なければ生存できない

 コンピュータの世界で、ソフトウェアが不滅の生命を得るためには、ソース4)が必要になる。ソースが無くバイナリ5)しか提供されなければ、いくら有用なソフトウェアといえども、環境の変化に淘汰されてしまう。プラットフォームの変化があろうとも、ソースさえ提供されていれば、新しいプラットフォームに対応するバイナリを作成することが出来る。電子書籍のコンテンツもソフトウェアとして考えることができる。バイナリしか提供されていなければ、コンテンツがいくら有用であっても、表示端末の世代交代(環境の変化)によりその生命は途絶えてしまう。
 XMDFや.bookはバイナリとして提供される。バイナリからソースを復元することは、基本的に出来ない。DRMを破ることは法的に問題があるため、合法的にソースを復元することは不可能と考えてよい。ePubはバイナリとして提供されるが、このバイナリはZIPアーカイブ6)のため解凍処理を行うだけで、ソースが復元できるようになっている。形こそバイナリとして提供されているが、ソースとして提供されているも同然である。アプリケーションタイプはバイナリとして提供される。XMDFや.bookではビュアーとコンテンツは分離されているが、アプリケーションタイプはピュアーとコンテンツが分離されてないため、最も環境の変化を受けやすい。紙面として一番美しくても、すぐに消えてなくなるだろう。以上のことから生存の可能性が高いものは明白である。

DRMフリーへ

 産業界では電子書籍のコンテンツに対する権益を守るために、独自規格には必ずといっていいほど、DRMと呼ばれるプロテクトが施されている。このDRMは産業界の権益を守っている筈であるが、同時にフォーマット普及のための大きな桎梏になっている。ある書籍を見るためには、必ず権利者の許可を取らなくてはならない、としたらどうであろうか。その上コンテンツ販売の回転率を上げる為に、コンテンツに有効期限を設定することもできる。有効期限を設定されたコンテンツによって回転率が上がるかは疑問であるが、有効期限付きコンテンツはユーザにとって有用であろうか。当然のことであるが、そのような書籍は使い勝手が悪く普及しない。電子書籍におけるDRMはそれと同じことを要求する。とどのつまりこういうことである。
書籍甲を見るために、企業乙に対して、利用者丙は閲覧料を納入しなければならない。但し、利用者丙は企業乙が定める利用期限がある場合、これに従わなければならない。
 DRMが前提の規格は、その生存競争に於いて、大きく不利な位置に置かれることになる。したがって自らを守るために、自らが束縛される。多くの企業はこのことに気づいていない。
 企業はこのことを自覚しDRMを思い切って放棄するべきである。オープンな規格でなければ利用者は遠のいてしまう。企業は利用者には便宜を図り、コンテンツの質や量のの充実を進め、自らの収益を計らなければならない7)。このままではDRMを事実上放棄しているePubが標準になるのは明白である。
 日本のメーカーがその技術仕様をオープン8)にし、DRMを放棄さえすれば、生存の道は残されている。ePubは日本語の紙面を提供するのに、必ずしもベストの規格ではない。DRMフリー、オープンソースという同じ俎上に立ちさえすれば、日本独自の規格は使われつづけるだろう。企業は技術を生かすも、殺すもあくまでも経営方針にかかっているのだ。
(小宮和寛)

注:
 1)Deigital Rights Managementの略。産業界の権益のためにあるプロテクトの筈だが、同時に首を絞めている。
 2)事実上のDRM放棄。DRMを実装することは可能であるが、具体的なDRM方法は利用者に任せられている。
 3)表示ソフトビューワーとコンテンツが統合されていて、単独のソフトウェアとして利用するもの。
 4)プログラムの設計図。コンピュータではソースがあればバイナリ(マシン語)を生成することができる。
 5)暗号化もくしくはエンコードされたデータ形式。バイナリはソースから生成されるものであって、バイナリからソースを復元することはできない。アーカイブファイルのように可逆可能な場合もある。
 6)世界的に広く利用されている圧縮形式の一つ。複数のファイルを一つの可逆可能なバイナリファイルにまとめる。
 7)総合的な情報サイト等のインフラを活用したビジネスモデルを模索してゆかなくてはならない。製品を製造するだけの企業は間違い無く淘汰されるだろう。
 8)XMDFを推進するシャープ[6753]は原稿投稿の翌日(2011年4月22日)に制作環境を出版社や電子書籍制作会社に無償で配布することを発表した。出版社や電子書籍制作会社に限定せず、エンドユーザにも門戸を広げていただきたい。オープン化の要求は今後も強くなるだろう。
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